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粋じゃない。でもモテるのが光源氏 [読書]


田辺聖子全集 15 源氏紙風船/大阪弁ちゃらんぽらん ほか

田辺聖子全集 15 源氏紙風船/大阪弁ちゃらんぽらん ほか

  • 作者: 田辺 聖子
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2005/05/02
  • メディア: 単行本


田辺聖子の「源氏紙風船」、「『源氏物語』男の世界」を読了。
いったい田辺聖子の源氏関連本はいくらあるんでしょう。
まぁ、これも読書の楽しみが増えるから、うれしいことなんですけどね。

田辺さんいわく、
源氏の若いころは、
「いたる処で女にぶつかり、そのたびに、そめそめとくどいている。はじめて会った女にも必ず「年ごろ思ひわたる心のうち」ともちかける」
初対面の女にも「ずっと前から好きだったんだよ」と口からでまかせ(言葉の蜜)を
言うことができるというのも、恋愛偏差値が高いんでしょう。
さらに
「源氏には、現代日本男性にはない、まるでイタリー男のような爽快な小気味よさをおぼえる」
なるほど。2010年の日本にはますます希少種となっています。そういう男は(笑)。

粋というよりも、滑稽だったり、軽率だったり、そんなところを
多分にもっているのが光源氏という主人公なのかもしれません。

しかし、やっぱりね。
なんというかかわいげがあるんですね。

末摘花との仲を取り持った女房が、すっかりお見限りの源氏に泣きつくにくると・・・。
以下また引用。
「『忙しいときなんでね、悪いけど』と嘆息しつつ、
『あんまり姫君が物分かりがおわるいのでね、こらしめてさし上げようと思うんだよ』
などといって、にっこりする、それが、まことに愛嬌ある、若々しい可愛らしさで、命婦も思わず微笑しないではいられない。(略)『むりもないわ、女に恨まれるお年頃だもの。恨まれざかりというのかしら・・・女に思いやりが少なく、わがままなのもしかたないわ』
引用終わり。
文句を言いに来た女房を笑顔で(言葉は悪いですが)たらしこんじゃった。
あらあら。これぞ、モテる男の真骨頂とでもいいましょうか。

そういえばPerfumeの「ナチュラルに恋して」の歌詞にも
「君は人気者だし 不安にもなるけれど そうやって笑うたび 安心しちゃうの」
というくだりがあることを思い出しました。
だめなのよね、こういう笑顔にだまされちゃ。

不自然なガール/ナチュラルに恋して(通常盤)

不自然なガール/ナチュラルに恋して(通常盤)

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: 徳間ジャパンコミュニケーションズ
  • 発売日: 2010/04/14
  • メディア: CD



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大阪弁ちゃらんぽらん [読書]

またしても、おせいさん、田辺聖子です。
ここ数年、精神安定剤のようにして愛読してるのは
我ながらどういうわけか、わかりませんが、
こんな「親しみを感じる」作家がいるというのはよいものです。

この本で取り上げられている大阪弁は、
「ああしんど」
「あかん」と「わや」
「あほ」と「すかたん」
「えげつない」
「チョネチョネ」
「けったいな」
「こまんじゃこ」
「あんばい」
「ややこしい」
「しんきくさい」
「いちびる」
「ねちこい」
「あんだらめ」
「あもつき」
「あかめつる」
「ぼろくち」
「ウダウダ」
「タコツル」
「サン」と「ハン」
「てんか」

壮観です。
見事に豊かな言葉の世界。

田辺聖子の小説には大阪弁を話す人たちがよく登場しますが、
そうでないと表現できない、選びようのないものなんだろうと思います。
そこを標準語にしてしまうと、登場人物たちは死んでしまうじゃなかろうか。

大阪弁というのは、全体に柔らかで婉曲的で優しい言葉ですが、
悪口雑言や尾籠な言葉も幅広い。
田辺さんが言うには、罵詈讒謗(すげー画数。目ぇがつぶれるようです)は
「ド」を名詞の頭にくっつけると、手っとり早く、
ドあほ、ド畜生、ド餓鬼、ドタマ(頭のあが落ちている)、ドスケベ・・・
なかにはド阪神(いいところまでいったのに、後半めためたと崩れる試合を見て
阪神ファンがののしる言葉)という用例もあるらしいです。

反対に接尾語には
「くさる」「さらす」「けつかる」「こます」があり、
「何さらすねん」「何ぬかしてけつかる」というように使うそうです。
さらに暴力が用いられるようになると
「どつく」「どやす」「しばく」「はつる」ことになります。

大阪に限らず、方言は駆逐されていく運命にあるようで、
標準語一色になっていくのもちょっとさびしいもんです。

大阪弁ちゃらんぽらん (中公文庫)

大阪弁ちゃらんぽらん (中公文庫)

  • 作者: 田辺 聖子
  • 出版社/メーカー: 中央公論社
  • 発売日: 1997/03
  • メディア: 文庫



田辺聖子全集 15 源氏紙風船/大阪弁ちゃらんぽらん ほか

田辺聖子全集 15 源氏紙風船/大阪弁ちゃらんぽらん ほか

  • 作者: 田辺 聖子
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2005/05/02
  • メディア: 単行本



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愛おしい小泥棒 [読書]


現代短篇の名手たち3 泥棒が1ダース (ハヤカワ・ミステリ文庫)

現代短篇の名手たち3 泥棒が1ダース (ハヤカワ・ミステリ文庫)

  • 作者: ドナルド・E・ウェストレイク
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2009/08/21
  • メディア: 文庫


私の愛する泥棒、ドートマンダーが活躍する短編集。
1ダース分、おさめられています。
ドートマンダーは、はしこい頭脳とひらめきと分別があるのに、
なぜか不運に見舞われるのです。しかも毎回、
思ってもいない方向から。
あるいは当然考えられるような方向からも。
不運はなぜか連鎖し、さらなる不運を呼び、
最初の目的は既に失われ、わやくちゃになるのです。

例えば、銀行強盗に入ったらすでに別の銀行強盗がいて、
やむなく人質に自分を警察の救出部隊と偽っていたら、
当然のことながら本物の警察が来て、
でも先着の強盗はまだ居て。。。なんていう。

どの短編もふふっと笑えること間違いありません。

ニューヨークを舞台にしてますが、
てんでおしゃれでないところもドートマンダーらしくて良いです。

いやほんと、短編のお手本のような12編。

ドートマンダーが業務遂行中に名前を聞かれる場合、
多くの泥棒はジェームズ・ボンドとは違うので、
堂々と本名を名乗るものではありません。
なぜかとっさに彼が名乗ってしまう名前は
「ディダムズ」。
日本人たる私にはピンとこないんですが、相当変わった名前らしく、
だいたい「は?」と聞き返され、先祖がウェールズ出身でうんぬんというような
余計な説明をせざるを得なくなるのです。
そこで精力を使い果たしたドートマンダーは、
続けてファーストネームを聞かれて
つい本当の名前「ジョン」を告げてしまうあたり素晴らしいですw

ウェストレイクにはまだ未訳のものもあるので、
続けて訳出されることを願ってます。
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聖なる怪物 [読書]


聖なる怪物 (文春文庫)

聖なる怪物 (文春文庫)

  • 作者: ドナルド・E.ウェストレイク
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2005/01
  • メディア: 文庫


私の愛してやまない不運な泥棒ドートマンダーを主人公にしたシリーズで
有名なドナルド・E・ウェストレイク。
ドートマンダーは笑えるんですが、
この「聖なる怪物」はドートマンダー・シリーズではない作品。

ジャック・パインというハリウッド・スターの
「怪物」の怪しい、いや悲しい、そして怖い話です。

実際、作者のウェストレイクは映画やテレビの脚本も書いているので、
この業界をそばから(内側から)のぞける立場。
そういう意味ではリアリティがあります。

しかし、実際、マイケル・ジャクソンとかブリトニー・スピアーズとか
パリス・ヒルトンとかリンジー・ローハンとか、
見ていてこちらが辛い(痛い)気持ちになるスターはたくさんいます。
なんでなんでしょうね。
富と名声が大きすぎる(なんせハリウッドスターともなると世界のセレブリティ)、
ドラッグが手に入りやすい、
ポリティカリー・コレクトネス要請がきつい・・・から?
意外に最後の要因は大きい気がします。

この主人公、ジャック・パインの悲劇の一因も彼が
スターであることにあるんですよね。
やや落ちが見え気味で、衝撃のラストとまではいきませんでしたが、
終盤のたたみかける勢いはすごかったです。
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橋本治と内田樹 [読書]


橋本治と内田樹

橋本治と内田樹

  • 作者: 橋本 治
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2008/11/27
  • メディア: 単行本


タイトルは「橋本治と内田樹」ですが、
正しくは「橋本治に話を聞く内田樹」という実体の対談集です。

語られることは、もっぽら「橋本治」。
内田樹は聞き役に徹しています。
確かに橋本治って、刊行物はやたらと多いのに批評されない作家です。
なんかすごく手を出しにくい感じとがするんじゃないでしょうかね。

実際、橋本治のエッセイやコラムよりも、
この対談のほうが、橋本治が「見える」気がします。

いろいろ核心にふれる箇所は多いんですが、
私は橋本治のこんな発言が面白かったです。
以下引用。
「俺はヴィトンのバッグを持っているということが馬鹿の証拠だと思うので、
少なくともヴィトンのバッグを持った人が向こうから来たら、ちょっと距離を(笑)おきます。
馬鹿がうつらないように(笑)」
この意地悪ぶりが「官討」につながるのかな。
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