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やっと分かった!「クレーヴの奥方」 [読書]


クレーヴの奥方 他2篇 (岩波文庫 赤 515-1)

クレーヴの奥方 他2篇 (岩波文庫 赤 515-1)

  • 作者: ラファイエット夫人
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1976/01
  • メディア: 文庫


「まいにちフランス語」で澤田直先生のお勧めにしたがって(?)、
「クレーヴの奥方」、読んでみました。

面白かったですよ。
美貌の主人公、クレーヴの奥方は、そのまま源氏物語の
大君であり浮舟でありました。
時代を越えて、洋の東西を越えて、この同調ぶりは驚くばかり。
そして、源氏物語を現代語訳で何度か読んでも、
どうもピンとこなかったのが大君と浮舟でした。

当代一流の貴公子に一途に思いを寄せられても、
かたくなに拒みとおす大君と浮舟。
その頑強な意志がどうもよく分からない。

同じようにクレーヴの奥方も、
美貌のヌムール公に恋をしていながら、
最後まで拒みとおします。

ただ、やはりフランスの小説だけあって、最終盤の二人のやり取り、
まぁ、よくしゃべります。
文庫本にして12ページもほぼ会話だけ。
ときには1人で1ページ以上も「語る」ことも。
このしゃべりっぷりは日本人にはありえません。
でも、こうやってよくしゃべってくれるからこそ、
なぜ主人公のクレーヴの奥方が、ヌムール公の愛を
受け入れられないのか、分かるような気がします。
世間体や亡くなった夫、クレーブ殿への義理だてもあるでしょうが、
それ以上に、愛を得るということは同時にそれを失うかもしれない恐れと
ともにずっと生きていくということでもあります。

17世紀の古い小説ですが、1000年前の源氏物語を楽しめる私たちに
とっては、なんの問題もなし。すらすら楽しめる小説です。

アンリ2世と愛人ヴァランチノア夫人(ディアーヌ・ド・ポワティエ)、
王妃カトリーヌ・ド・メディシス、メアリー・スチュアートなど
他の登場人物も豪華絢爛です。

しかし、併録されている短編「モンパンシエ公爵夫人」と「タンド伯爵夫人」は
いきなりあらすじを読んでいるかのようなスカスカ感で、
これはこれでびっくりしました。
どうでもいいんですが、「クレーヴの奥方」では「ギーズ公」だったのが、
「モンパンシエ公爵人」では「ギュイーズ公」になっているのはなぜなんでしょう??

ピアノ・ノート [読書]


ピアノ・ノート

ピアノ・ノート

  • 作者: チャールズ・ローゼン
  • 出版社/メーカー: みすず書房
  • 発売日: 2009/09/19
  • メディア: 単行本


サイードをして「音楽について物を書く人間で、
ローゼンのような才能をもつ者は他にいない」と
言わしめたのもむべなるかな。
ピアノについて知りたい、音楽について知りたいということ以上に
読むことが楽しめる本です。

ちなみに作者チャールズ・ローゼンはピアニストであり、
大学教授でもあり、音楽理論書の著者でもあるそうです。

ピアニストに向く手があるのかないのか、
なんでグレン・グールドはあんな座り方なのか、
読書をしながらピアノの練習をするのを勧めるのはなぜか・・・。
ピアニストでないと書けないし、
同時にそれを面白く書けるのは、
この作者しかいないのかもしれません。

副題には「演奏家と聴き手のために」と書かれていますが、
どちらにも当てはまらない人にもお勧めです。
もちろん、どちらかに当てはまっていたほうが、
ずっと楽しめると思いますが。

ただ、訳文がもう少しこなれていたら・・・という部分がいくつか
あったのが残念でした。
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ボン書店の幻! [読書]


ボン書店の幻―モダニズム出版社の光と影 (ちくま文庫)

ボン書店の幻―モダニズム出版社の光と影 (ちくま文庫)

  • 作者: 内堀 弘
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2008/10/08
  • メディア: 文庫


ボン書店の店主、鳥羽茂という無名の人を追った本。
数年で消えた出版社で、出版社をたたんだあと、
どことも知らないところで亡くなったらしいという噂しか
残っていないのがさびしい。
途中で戦争をはさんでいるし、鳥羽茂の消息をたどるのは容易ではありません。
しかし、まったくもってお金にならない「書店」(一人っきりの
出版社?)に精魂を傾けた人の行方を追うこの本がこんなに胸に迫るとは。
特に文庫版で追加された章の最後の何行かには、涙させられました。

ボン書店は、1930年代(昭和初期)に実在した
小さな小さな小さな出版社で、モダニズムの詩を主に出版していたそうです。
その美しい装丁、造本でも有名だったそうですが、なにせ零細出版社。
「彗星のように」消えてしまったとか。
いやぁ、今だって儲かりませんよね。
モダニズムの詩の出版。

しかし!ボン書店の本が、すばらしくかっこいいんですよ。
「ボン書店の幻」の表紙にもなってますが、
「生キタ詩人叢書」なんてハッとするようなデザインです。
ほかにもマダム・ブランシュ、
レスプリ・ヌーボー(のちに詩学と改題)という詩の雑誌や
小さな詩集を出していますが、いずれもシック。
そのかっこよさは驚嘆ものです。
北園克衛や西脇順三郎、春山行夫の名前も見え隠れ。
知性と教養が桁違いに増したユトレヒトという感じです。

著者の内堀宏さんは古書店「石神井書林」店主。
目録販売だけだそうですが(私も一度だけ見たことがあります)、
その目録の充実ぶりは有名です。
鳥羽茂の「アマチュア」ぶりに共通するものを持っているのかもしれません。

いや、今年のベストになりそうな本でした(発行は古いですが)。
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村上春樹 [読書]

「1Q84」のbook3、書店に山のように積まれてます。
去年出たbook1と2は読んだんですが、うーん、続編に
手を出す気がせず、静観してます。
よく考えてみると、村上春樹の長編を読まないのは
初めてです。

短編に関しては相変わらず、熱い思いで読んでますが、
なんなんでしょうねぇ、
作家の成長に読者(私)が付いていっていないのか、
作家が別の道に行ってしまったのか、
読者(私)が歳をとったのか。

学生のときに当時背伸びをしながら買っていた「マリ・クレール」で
「パン屋再襲撃」を読んだときは、「これだ、これだ」と
ワクワクしました。かっこよかったなー。
単行本じゃなくて、雑誌掲載時に読んだのも興奮の一因かもしれません。
本を読んで興奮するってなかなかないことだと、
あのときは知りませんでした。あー、若かったな。

そのあと「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」を読んで、
頭ガーン。
今まで読んでたニッポンの小説とは全然違う。
小説で「かっこいい」ってこういうことだ。
とすら思いましたね。
ま、私が若いからこその知識と教養不足ってのもあるんですが(w今もあるw)、
今でも「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」が
村上春樹の小説の中で最も好きだし、
あれから20年以上たっても新刊を欠かさず買う動機になっているのは確かです。

好きな作家の新作にのれない寂しさって
意外に大きいですね。

しょうがないから、
昔の、ぬくぬくした世界に戻ろう。
こういうのを「退行」って言うのかしらん。

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 上巻 新装版 (新潮文庫 む 5-4)

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 上巻 新装版 (新潮文庫 む 5-4)

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2010/04
  • メディア: 文庫



世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 下巻 新装版 (新潮文庫 む 5-5)

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 下巻 新装版 (新潮文庫 む 5-5)

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2010/04
  • メディア: 文庫


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オリンピックの身代金 [読書]


オリンピックの身代金

オリンピックの身代金

  • 作者: 奥田 英朗
  • 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
  • 発売日: 2008/11/28
  • メディア: 単行本


日本のミステリーを読むのは久しぶり。一日で一気に読みました。
推理小説って、結末を知りたくて(読みやすいこともあるかな)、
途中でやめられなくなっちゃうんですよね。

オリンピックとは、北京でもバンクーバーでもなく、
1964年の東京。
確か以前にも東京でのオリンピックは決まりかけていたけれど、
戦争で流れ、そしてその戦争でコテンパンにされ、
這い上がってきたころの日本が舞台です。
明治維新からこのかた、無理に無理を重ねて「一等国」になり
(そうしないと搾取される側に蹴落とされるから、そうするほかなかった)、
それが破たんして敗戦。
そこからまたのし上がってきた、そんな昭和39年。

私はまだ生まれていなかったけど(ま、すぐ生まれるんですけどね)、
日本はまだ貧しかったし汚かった。
国をあげて「外国のお客さんに恥ずかしくない」ように東京を仕立てたけれど、
地方は何も変わらなかった。
家柄や学歴で恵まれている人がいれば、
そうでない人もたくさんいた。
主人公が働く工事現場の、ゼネコン、元請け、下請け、その下請けなんて
構図を見ているとやりきれないものがあります。

今だって、乱暴にふたをしているから見えないだけで、
その下には臭いどぶ川が当時のまま流れているのかもしれません。
読んでいるうちに、そう昔のことでもないように思えてきます。

主人公は、秋田の貧しい村出身の東大院生ですが、
本当の主役は、東京オリンピックだろうなぁ。
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