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ピアノ・ノート [読書]


ピアノ・ノート

ピアノ・ノート

  • 作者: チャールズ・ローゼン
  • 出版社/メーカー: みすず書房
  • 発売日: 2009/09/19
  • メディア: 単行本


サイードをして「音楽について物を書く人間で、
ローゼンのような才能をもつ者は他にいない」と
言わしめたのもむべなるかな。
ピアノについて知りたい、音楽について知りたいということ以上に
読むことが楽しめる本です。

ちなみに作者チャールズ・ローゼンはピアニストであり、
大学教授でもあり、音楽理論書の著者でもあるそうです。

ピアニストに向く手があるのかないのか、
なんでグレン・グールドはあんな座り方なのか、
読書をしながらピアノの練習をするのを勧めるのはなぜか・・・。
ピアニストでないと書けないし、
同時にそれを面白く書けるのは、
この作者しかいないのかもしれません。

副題には「演奏家と聴き手のために」と書かれていますが、
どちらにも当てはまらない人にもお勧めです。
もちろん、どちらかに当てはまっていたほうが、
ずっと楽しめると思いますが。

ただ、訳文がもう少しこなれていたら・・・という部分がいくつか
あったのが残念でした。
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ボン書店の幻! [読書]


ボン書店の幻―モダニズム出版社の光と影 (ちくま文庫)

ボン書店の幻―モダニズム出版社の光と影 (ちくま文庫)

  • 作者: 内堀 弘
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2008/10/08
  • メディア: 文庫


ボン書店の店主、鳥羽茂という無名の人を追った本。
数年で消えた出版社で、出版社をたたんだあと、
どことも知らないところで亡くなったらしいという噂しか
残っていないのがさびしい。
途中で戦争をはさんでいるし、鳥羽茂の消息をたどるのは容易ではありません。
しかし、まったくもってお金にならない「書店」(一人っきりの
出版社?)に精魂を傾けた人の行方を追うこの本がこんなに胸に迫るとは。
特に文庫版で追加された章の最後の何行かには、涙させられました。

ボン書店は、1930年代(昭和初期)に実在した
小さな小さな小さな出版社で、モダニズムの詩を主に出版していたそうです。
その美しい装丁、造本でも有名だったそうですが、なにせ零細出版社。
「彗星のように」消えてしまったとか。
いやぁ、今だって儲かりませんよね。
モダニズムの詩の出版。

しかし!ボン書店の本が、すばらしくかっこいいんですよ。
「ボン書店の幻」の表紙にもなってますが、
「生キタ詩人叢書」なんてハッとするようなデザインです。
ほかにもマダム・ブランシュ、
レスプリ・ヌーボー(のちに詩学と改題)という詩の雑誌や
小さな詩集を出していますが、いずれもシック。
そのかっこよさは驚嘆ものです。
北園克衛や西脇順三郎、春山行夫の名前も見え隠れ。
知性と教養が桁違いに増したユトレヒトという感じです。

著者の内堀宏さんは古書店「石神井書林」店主。
目録販売だけだそうですが(私も一度だけ見たことがあります)、
その目録の充実ぶりは有名です。
鳥羽茂の「アマチュア」ぶりに共通するものを持っているのかもしれません。

いや、今年のベストになりそうな本でした(発行は古いですが)。
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村上春樹 [読書]

「1Q84」のbook3、書店に山のように積まれてます。
去年出たbook1と2は読んだんですが、うーん、続編に
手を出す気がせず、静観してます。
よく考えてみると、村上春樹の長編を読まないのは
初めてです。

短編に関しては相変わらず、熱い思いで読んでますが、
なんなんでしょうねぇ、
作家の成長に読者(私)が付いていっていないのか、
作家が別の道に行ってしまったのか、
読者(私)が歳をとったのか。

学生のときに当時背伸びをしながら買っていた「マリ・クレール」で
「パン屋再襲撃」を読んだときは、「これだ、これだ」と
ワクワクしました。かっこよかったなー。
単行本じゃなくて、雑誌掲載時に読んだのも興奮の一因かもしれません。
本を読んで興奮するってなかなかないことだと、
あのときは知りませんでした。あー、若かったな。

そのあと「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」を読んで、
頭ガーン。
今まで読んでたニッポンの小説とは全然違う。
小説で「かっこいい」ってこういうことだ。
とすら思いましたね。
ま、私が若いからこその知識と教養不足ってのもあるんですが(w今もあるw)、
今でも「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」が
村上春樹の小説の中で最も好きだし、
あれから20年以上たっても新刊を欠かさず買う動機になっているのは確かです。

好きな作家の新作にのれない寂しさって
意外に大きいですね。

しょうがないから、
昔の、ぬくぬくした世界に戻ろう。
こういうのを「退行」って言うのかしらん。

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 上巻 新装版 (新潮文庫 む 5-4)

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 上巻 新装版 (新潮文庫 む 5-4)

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2010/04
  • メディア: 文庫



世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 下巻 新装版 (新潮文庫 む 5-5)

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 下巻 新装版 (新潮文庫 む 5-5)

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2010/04
  • メディア: 文庫


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オリンピックの身代金 [読書]


オリンピックの身代金

オリンピックの身代金

  • 作者: 奥田 英朗
  • 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
  • 発売日: 2008/11/28
  • メディア: 単行本


日本のミステリーを読むのは久しぶり。一日で一気に読みました。
推理小説って、結末を知りたくて(読みやすいこともあるかな)、
途中でやめられなくなっちゃうんですよね。

オリンピックとは、北京でもバンクーバーでもなく、
1964年の東京。
確か以前にも東京でのオリンピックは決まりかけていたけれど、
戦争で流れ、そしてその戦争でコテンパンにされ、
這い上がってきたころの日本が舞台です。
明治維新からこのかた、無理に無理を重ねて「一等国」になり
(そうしないと搾取される側に蹴落とされるから、そうするほかなかった)、
それが破たんして敗戦。
そこからまたのし上がってきた、そんな昭和39年。

私はまだ生まれていなかったけど(ま、すぐ生まれるんですけどね)、
日本はまだ貧しかったし汚かった。
国をあげて「外国のお客さんに恥ずかしくない」ように東京を仕立てたけれど、
地方は何も変わらなかった。
家柄や学歴で恵まれている人がいれば、
そうでない人もたくさんいた。
主人公が働く工事現場の、ゼネコン、元請け、下請け、その下請けなんて
構図を見ているとやりきれないものがあります。

今だって、乱暴にふたをしているから見えないだけで、
その下には臭いどぶ川が当時のまま流れているのかもしれません。
読んでいるうちに、そう昔のことでもないように思えてきます。

主人公は、秋田の貧しい村出身の東大院生ですが、
本当の主役は、東京オリンピックだろうなぁ。
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モテと非モテの差 [読書]

田辺聖子の「新源氏物語」、「霧ふかき宇治の恋」(宇治十帖)、
読み終わりました。

もちろん原作に沿っていますが(と言っても私は
現代語訳しか読んだことがないので、それとの比較でしかありませんが)、
桐壷のようにない巻があったり、歌が少なくなっていたりします。
しかし、おそらく作者は非常に優れた源氏の読み手なのでしょう。
流れるように、読みやすい源氏でした。

田辺源氏で、最も面白いと思ったのは、光源氏がかっこいいこと
光源氏ですから、生まれが良く、輝くばかりの容貌で
音楽も書も踊りも教養も並はずれているのはその通り。
それに加えて田辺源氏では、
この青年は、やさしげにみえながら、一面、 剛腹なところがあるのであった。不遇のときも、その運命に捲きこまれて 委縮したりしない、ふてぶてしいものを秘めており、美貌に似合わぬ気骨の ある青年なのである。彼は、失意の運命に挑戦して、 かえって奔放に生きようとするかにみえた。」
・・・・のであります。

だからこそ、父の正室(藤壺の宮)に忍んで行ったり、
政敵の娘(朧月夜)と密会したり(その結果、政治的に失脚してしまう)、
美貌の少女(若紫)を連れ帰ったりといろいろ無茶をなさいます。
理性で抑えられない情熱があるんですね。

ああ、それにひきかえ、「霧ふかき宇治の恋」の主人公、薫。
宇治の姫君、三人全員にふられるありさま。
源氏亡き後、当代一の貴公子なのに。
ライバル匂宮が懸命に香をたきしめないと対抗できないほど、
自然に良い香りがするくらいの美点があるのに。
なんで、父(ほんとの父じゃありませんが)光源氏のように、
モテないのか?
それは、いつだって女性に対して及び腰で、押しが弱すぎるからです。

田辺聖子との対談で、円地文子が
「あたしは手を出さない男って、きらいよ」と言ったとか。
君のことだよ、薫大将。
女流の文豪も怒っておられるのだよ。

地位も権力も富も美貌も教養もそろっていても、
押しが弱い男はモテないという源氏物語なのでした。

でも、女の人はもっと大変です。
若くなかったり(源典侍)、
美しくなかったり(末摘花)、
教養がなかったり(近江の君)、
するとお笑い要員にされてしまいますから(笑)。

新源氏物語 (上) (新潮文庫)

新源氏物語 (上) (新潮文庫)

  • 作者: 田辺 聖子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1984/01
  • メディア: 文庫



新源氏物語 (中) (新潮文庫)

新源氏物語 (中) (新潮文庫)

  • 作者: 田辺 聖子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1984/01
  • メディア: 文庫



新源氏物語 (下) (新潮文庫)

新源氏物語 (下) (新潮文庫)

  • 作者: 田辺 聖子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1984/01
  • メディア: 文庫



霧ふかき宇治の恋―新源氏物語〈上〉 (新潮文庫)

霧ふかき宇治の恋―新源氏物語〈上〉 (新潮文庫)

  • 作者: 田辺 聖子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1993/11
  • メディア: 文庫



霧ふかき宇治の恋―新源氏物語〈下〉 (新潮文庫)

霧ふかき宇治の恋―新源氏物語〈下〉 (新潮文庫)

  • 作者: 田辺 聖子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1993/11
  • メディア: 文庫



田辺聖子全集〈7〉新源氏物語(上)

田辺聖子全集〈7〉新源氏物語(上)

  • 作者: 田辺 聖子
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2004/05
  • メディア: 単行本



田辺聖子全集 (8)

田辺聖子全集 (8)

  • 作者: 田辺 聖子
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2004/07
  • メディア: 単行本


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