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花衣ぬぐやまつわる紐いろいろ [読書]


花衣ぬぐやまつわる…―わが愛の杉田久女〈下〉 (集英社文庫)

花衣ぬぐやまつわる…―わが愛の杉田久女〈下〉 (集英社文庫)

  • 作者: 田辺 聖子
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 1990/06
  • メディア: 文庫


田辺聖子、87年の作。
連載を多く抱える流行作家である田辺聖子が、
よくもこんな労作をものしたと思います。

昭和初期の女性俳人、杉田久女の評伝。
私が久女を知ったのはこの本からなので、よく知りませんでしたが、
特にこの本以前の久女の評判は気の毒なほど。
偏屈、わがまま、名声を求めたがる、奔放、変わり者、人を破滅させる・・・。
実際に精神病院で没してはいますが、
世にその印象を強烈にしているのは俳句の師でもある虚子であったことが、
明らかにされていくのは推理小説を読むようでした。

吉屋信子の評伝「ゆめはるか吉屋信子」と同様に、
田辺聖子の筆は、不遇の久女に対して、常に暖かく、
かと言って同情に溺れるわけでもなく、しっかりと調査をしたあとがうかがえます。

夫(中学教師)の理解のなさ、経済的困窮、女性蔑視、戦争と
環境にも恵まれませんでしたが、
やはり彼女の不幸は彼女自身が増幅させているところもあります。

あまりに正直なために他人とぶつかってしまう。
それでも「私に悪いところはないのに、なぜ!?」としか思えない。
何を見ても憤りを感じてしまう。人が気にしないささいなことが許せない。
こういう優等生タイプのやや極端な人、いるかもしれません。
確かにちょっとうざい。
本人は「自分は正しい」と思っているけれど、
周りは引いている。
でも久女の場合は、ふつうのうざいおばさんではありません。
俳句には天才的なセンスがありました。
それでも、敬愛する師である俳壇の大物である虚子にも嫌われる。

俳壇というところが特別なのかどうか、分かりませんが、
当時、虚子にうとまれるということは、俳人として抹殺されるに近かったそうです。

ただ、田辺さんも書いておられますが、
あの戦争を経ても句稿がしっかりと残ったことは、不幸なめぐり合わせが多かった久女の
最大の幸福なのかもしれません。
彼女の住んでいた小倉は、原爆の第一目標であったのに、
たまたま天候が悪かったために長崎に落とされました。
いや、もしかしたら最大の幸福は、久女の知名度を一段と広げ、汚名をそそいだ、
この本が田辺さんによって書かれたことかもしれません。
花衣ぬぐやまつわる…―わが愛の杉田久女〈上〉 (集英社文庫)

花衣ぬぐやまつわる…―わが愛の杉田久女〈上〉 (集英社文庫)

  • 作者: 田辺 聖子
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 1990/06
  • メディア: 文庫


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コメント 7

どらっち

文化的な集まりは、狭そうですよね。世界が。
だから、この人に嫌がられたら、もうおしまいみたいなのが
出てくるのかな。
彼女の事を知らなかったので、ちょっとググってみようかな。
もともと教科書に載ってる数人ぐらいしか知りませんけどね(^m^)
by どらっち (2009-04-14 18:30) 

chicory

びっくりするほどプロの世界って狭いですよね。
特に文壇の中でも、この時代の俳壇で高浜虚子といえば
王様=神様状態だったようですよ。
もっとも私、詩ごころがないんで、あまりきちんと
味わえないんですけども。
by chicory (2009-04-14 20:05) 

すずらん♪

天才と呼ばれる人は一般人のいう協調性に欠けるかもしれないですね。
そうでなければ、凡人と同じ仕事しかできないのかも。
よくわからないので、こんなコメントしかできないです(・ω・;A)アセアセ
by すずらん♪ (2009-04-14 23:24) 

snorita

いつの時代にもおんなじ様なキャラクターの女性がいるんですね。
正直さ、率直さゆえに、痛い思いをしている人を、見ますね。
決して嫌いじゃないんですけどね、そういうの。でもご本人は辛いでしょうねえ。ふーむ。。。
by snorita (2009-04-14 23:41) 

chicory

☆すずらんさん、こんにちは。
天才なのに、家事はやんなきゃいけないわ、子育てはやんなきゃいけないわで、並大抵の苦労ではなかったと思います。
しかも戦前だと「女のくせに」という目もあったでしょうし。
せめて夫の理解がもう少しあれば、ずいぶん違ったんじゃないかなぁと思います。女は大変ですねー。

☆snoritaさん、こんにちは。
女の人って、こういう率直タイプ、けっこういますよね。ごみ捨て場にルール遵守の張り紙しちゃうような感じ(まさしくこんな感じの人だったらしい)。
本人は周囲からうざいと思われるのも「不当な扱い」を受けてるようで、より辛いでしょうね。。
by chicory (2009-04-15 11:49) 

Sho

初めまして。Shoといいます。
この御本はずっと気になっていて、確かずいぶん前に試みて途中で止まってしまいました。
題名の句は、本当に美しいですね。
久女でしたら「谺して山ほととぎすほしいまま」が、やはりすごいと思いました。
by Sho (2009-04-16 00:57) 

chicory

Shoさん、はじめまして。
題名の句、女性らしいですよね。「こだま」の句は、思い切りがよくて雄大で、しかもすがすがしい。この本の後半で、この句を英彦山に写生に行く場面があって印象的でした。
「夕顔やひらきかかりて襞深く」もきれいだなぁと思いました。もっとも私、俳句はよくわからないんですが・・・。
by chicory (2009-04-16 01:22) 

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